新型コロナの「指定感染症」は過剰。インフルエンザと同じ「5類感染症」にⅡ

無症状感染者は他者に感染させるのか

新型コロナの指定感染症指定には別の問題もある。それは、実施されている措置に科学的根拠を欠くものがあることだ。一例をあげれば、無症状感染者(不顕性感染書ともいう)も周りの人に感染させる可能性があるとして、病院や療養施設に隔離している措置である。

これについては、早くから一部の研究者が「無症状感染者(PCR検査の陽性者)は排出するウイルス量がきわめて少なく、他人に感染させることはない」と主張している。

世界保健機関(WHO)は6月の記者会見で幹部(新興感染症・動物原性感染症部門長)が、無症状者が他者に感染させる可能性について、「現時点で入手しているデータから、依然としてきわめてまれと判断している」との見解を明らかにした。

このときは多くの専門家から反論や疑問が寄せられ、その幹部は翌日「私が言及したのは研究の一部だ」と釈明した。

この問題に決着をつけるような研究論文が8月、中国の研究チームから発表された(松浦康夫「新型コロナ、不顕性者からの感染リスクは?」=Medical Tribune8月19日)。

これは中国広州での新型コロナの初感染者391人とその濃厚接触者3410人を1月6日から3月6日まで追跡調査したもので、その結果、①濃厚接触者のうち2次感染したのは127人(3.7%)にすぎなかった、②初感染者の重症度が高いほど2次感染した人の割合が高い――ことがわかった。

具体的には、初感染者が重症の場合、感染率は6.2%だったが、中等症の感染者では5.6%に下がり、軽症になると3.3%。無症状感染者からの感染率はたった0.3%だった。

論文の著者たちは「新型コロナ感染者からの2次感染は比較的少ない」「より重い症状の感染者が高い感染力を持つ一方、無症状感染者の感染力は非常に限定的である」などと述べ、さらに「この研究結果はWHOが2月に発表した報告の内容と合致している」と付け加えている。

現在日本では、感染者(PCR検査の陽性者)は無症状でも他人に感染させる可能性があるとして、病院やホテル、場合によっては自宅に隔離している。濃厚接触者は無症状でも外出自粛を求めている。しかし、上記の研究結果を踏まえれば、それらの措置は不必要ということになる。

 

拡大療養用に自治体(大分県)が借り上げたホテルの部屋。体温計と血中酸素濃度計(手前)が用意されていた=大分市

経済・社会活動に与えた悪影響

新型コロナの指定感染症指定に基づく措置が、感染の爆発的拡大を抑制するのに大きな役割を断たしたのは事実だ。だが、同時に多くの弊害も生んだ。

弊害としてまず挙げられるのは、医療の逼迫をもたらしたことだ。指定感染症に指定されると、感染者は無症状や軽症の人も含めて、原則として指定医療機関に入院させなければならない。このため地域によっては病室や医療従事者が逼迫し、医療の崩壊を引き起こしかねない状態になった。

また、感染者が見つかると全員が保健所に届けられ、保健所はその人たちについて状況を国に報告しなければならないため、濃厚接触者の調査などに大変な労力が必要になる。
保健所は平成の統廃合で数が減らされ、人員も削減されていただけに、対応力が限界に近づいていた。

そして、このような弊害以上に深刻なのは、人々に行き過ぎた「恐怖感」を抱かせ、自治体・企業・学校などに過剰な感染対策を取らせたことではないかと、筆者は考えている。

ここでいう恐怖感は、当初と最近では内容が異なる。当初は新型コロナに感染すると重症になって死亡することもあるという医学的な恐怖感だった。しかし最近は、医学的な恐怖感とは別の種類の恐怖感が広がっているように見える。

感染しても無症状か風邪程度の軽症で済むだろうが、感染すれば無症状でも軽症でも一定期間隔離され、仕事も登校もできなくなってしまう。そのうえ、同僚・顧客・家族などを濃厚接触者にして大変な迷惑をかけることになる――ということへの恐怖である。

こうした恐怖感が人々を萎縮させ、経済活動や社会活動の足かせになっている。結果的に、経済は激しく落ち込み、雇い止めや解雇が急増しつつある。打撃をもろに受けるのは主に非正規雇用の人たちだ。

教育の分野では、多くの大学ではいまでもリモート授業が中心であり、小中高校では運動会・文化祭・修学旅行などが中止・縮小された。給食中の私語禁止・外遊びの制限・授業中の発言抑制などを求めている学校もある。これらの措置は子どもや若い世代の心身の発育にきわめて大きな影響を与える。

 

拡大コロナ禍の運動会でマスクをして応援をする児童=2020年9月27日、横浜市泉区の市立西が岡小学校

 

過度の恐怖感を和らげるために

こうした過度な恐怖感を和らげるには、政府が新型コロナを指定感染症から外し、「恐怖の感染症」ではないことを明確に示すのが有効だろう。

政府は10月から「G0 To キャンペーン」を拡充、消費喚起に躍起だが、人々の恐怖感を和らげてこそ、コロナ対策と経済社会活動が両立するようになるのではないだろうか。

新型コロナを指定感染症から外せという主張は、筆者に限らない。「指定感染症を解除して、インフルエンザと同レベルの対応に変えるべき」(枩村秀樹・日本総合研究所調査部長)など、少なくない医師や研究者が同じ主張をしている。

また、提言型の消費者団体であるNPO法人コンシューマー・ネットワーク・ジャパン(CNJ)は9月9日、加藤勝信厚労相(当時)らに提出した緊急申し入れ書で、「政令による指定感染症の適用の見直し」を求めている。たとえば無症状の感染者・濃厚接触者への検査の強制や入院勧告・就業制限は過剰な干渉であり、直ちにやめるべきだとしている。

政府は動き出したが

こうした声を受け、政府も対策本部で指定感染症からの解除を検討したが、結局、類の変更は見送ることになったようだ。厚労省は9月18日、新型コロナ関連政令の一部改正にとどめる方針を発表、10月9日の閣議で正式決定した(10月24日施行)。

一部改正の内容は、入院の対象を「感染者全員」から「高齢者や基礎疾患がある者」と「蔓延防止に必要な事項を守ることに同意しない者」に絞り、さらに自治体が入院対象を柔軟に決めることができるようにもする――というものだ。

これによって医療機関などの負担が軽くなり、重症者の治療に重点を置きやすくなるのは間違いないが、新型コロナを指定感染症のまま据え置いた点で、きわめて不十分な改正だと筆者は考えている。

いま必要なのは、新型コロナをその危険性に見合った分類にまで引き下げ、それにふさわしい措置を実施するという抜本的な改正ではないだろうか。

引用:https://webronza.asahi.com/national/articles/2020101800001.html?page=4